本の価値はひとそれぞれ。話題にはなっているが1行も参考にならない本もあるし、毎ページにドッグイヤーとハイライトをしてしまう本もある。
この本は、ぼくにとって後者になる予感がしている。『教えない教え方(仮)』だ。仮とついているのは、まだ出版が決まっていないから。翻訳出版できるかどうかは、クラウドファンディングの目標金額に達するかどうかで決まるらしい。
ぼくの読みたい本が出版されないのは困るので、この本への期待を書いて、微力ながら応援してみようと思う(英語の原著はあるものの、日本語で読みたいのだ)。
なぜ「教え方」が大事なのか、「教え方」のマインドチェンジによる効果、そして「教えない教え方」を実際に体験した感想と期待を書いていく。
なぜ「教え方」が大事なのか
日本の企業が直面している問題はいくつかある。労働力不足、グローバル企業との競争、デジタル技術への適応、社会的責任の向上への取り組み。
それらの問題に関わってくるのが、人材育成だ。昔から重要視されている部分ではある。だが、リスキリングやデジタル人材育成という言葉が飛び交うようになり、再注目されている領域だと思う。
以前、人材育成を推進していく全体像として、3つのカテゴリがあると書いた。期待される人材像の明確化、育成促進のための教育体系の見直し、育成・評価のサイクルの拡充だ。
この、育成促進のための教育体系の見直しの中に、OffJT(業務以外での教育や学習)が含まれている。簡単に言うと、研修だ。とうぜん、教え方が大事になってくる。
『教えない教え方(仮)』は、効果的な研修を新しく作るのに、あるいはより良い研修にアップデートするための助けになると考えている。良い研修が増えれば、能力のある人が増え、企業の成長にも寄与していくことだろう。
「教え方」のマインドチェンジによる効果
アクティブ・ラーニングが備えている特徴の中で、もっともキーになるのは「楽しさ」だと思う。楽しい体験は、主体性をもたらすし、学習効果も高く、記憶の定着率も高い。ぼくが算数や国語の授業で何をしたのかは憶えていないのに、調理自習で作ったヨモギだんごを憶えているのは、たぶんそういうことだろう。
研修というと、講師が話して受講生が聞くという図式を想像しがちだが、ここが大きく異なる点だ。それでは、楽しさは生まれない(よっぽど話がうまくないかぎりは)。効果的な研修には、マインドチェンジが必要なのだ。
ちなみに、ぼくは本業以外に社内の人材育成にも関わっている。研修の開発や講師の手配、自ら講師として講座を開くこともある。主にアジャイルソフトウェア開発に関する研修だ。
研修はそれぞれワークショップ、ハンズオンを多めにしており、自分で考える時間を多めにとっている。「楽しい」というフィードバックをもらうことも多い。事後アンケートで、満足度や有用度は平均で4.3の評価がもらえている(5点満点)。これは、他の研修に比べてかなりの高得点だ。
ぼくたちの研修がアクティブ・ラーニングと言えるかどうかは分からないが、受講者が学ぶ楽しさを求めているという、ひとつのケースではあると思う。
「教えない教え方」を実際に体験した感想と期待
このクラウドファンディングの発起人のひとり、清水さんの研修を受けたことがある。もちろん、「教えない教え方」でデザインされた研修だ。
その研修の中では、清水さんから直接話を聴く時間はほとんどなかった(トータル30時間の研修で数時間くらいだったと思う)。ほとんどの時間は、その時のテーマを自分で調べたり、他の参加者とディスカッションや模擬練習(例えば、コーチングやファシリテーション)をしていた。
その時の内容は、研修が終わった今でもよく思い出す。思い出すたび、身につけた知識やスキルを実践の場で活かすことができているのは、すごいことだなと感じている。
そして、こうも感じている。「ぼくが提供している研修は、まだまだ伸びしろがあるな」と。
研修講師、先生、トレーナー、スクラムマスター、アジャイルコーチ、他にもあるかもしれない「教える」ことに関わっている全ての人の参考になるという期待。そして、ぼくの「教える」力を伸ばしてくれるであろうという期待。そんな期待を『教えない教え方(仮)』に持っているのだ。
ちなみに、原著はこちら